日本人はなぜ商品の品質に厳しいのか

中央大学商学部教授 三浦俊彦氏

1958年京都府出身。86年慶應義塾大学大学院商学研究科博士課程中退。86年中央大学商学部助手。90年同助教授。95年コロンビア大学ビジネススクール客員研究員。96年ESCP(パリ高等商科大学)客員教授。99年より現職。主な著作に『マーケティング戦略論』(共著・芙蓉書房)、『スロースタイル』(共著・新評論)などがある。

日本の消費者は、世界で最も商品の選択基準が厳しいと言われている。購入した商品に少しでも傷があればクレームが入り、食品にも常に鮮度が求められる。その一方で、流行に乗りやすく、移り気でもある。バナナがダイエットにいいと聞けばスーパーの売り場が空になり、銀座に新しいショップができれば入店2時間待ちも厭わない。こうした日本の消費者特性をグローバルな視点から研究しているのが中央大学商学部の三浦俊彦教授だ。日本の消費者の特性とその攻略方法を探った。

国によって違う消費者特性

日本の消費者特性に興味を持ったきっかけというのは何ですか。

95年から2年間、ニューヨークとパリで研究する機会があったのですが、社会の価値観や消費者行動がまるで違うと実感したことですね。

例えば、日本ではテレビ番組でヌードシーンが時々出てくることがありますが、アメリカはそのへんが非常に厳格で、子供が見るようなメディアでは絶対にそういうことはない。その代わり、有料チャンネルでは性的表現に制限がありません。

一方、フランスでは、テレビCMにもヌードが出てくることがあります。ラテン系のフランスとアングロサクソン系のアメリカの違いなのかもしれませんが、国によって性的表現に対する寛容度も大分違います。

アメリカとフランスに行った2年間というのは、丁度子供が生まれて、家族3人での海外生活だったのですが、例えばベビーフードでも、日本だったらそれこそ舌平目のクリームソースまでいろいろな種類が過剰すぎるほど出ている。ところが、アメリカは日本ほど商品のバリエーションがない。フランスはさらに少ないんですね。子供の靴も日本ならビニール靴から革靴までいろいろな種類がありますが、フランスでは1、2歳の頃から革靴だけなんです。

子供の足が大きくなったら、また買い替えるわけですか。

革靴は伸びますから、その方が子供の成長のためにはいいという考え方なんです。そこには、靴の文化の長いフランスと日本との違いはあるかもしれませんが、日本の消費者は商品のバリエーションが多くないと満足しないというのは確かで、その違いはどこから来ているのか、それを探ってみようと思ったんです。

よく広告会社が「今年の消費トレンド」と称して、その年のキーワードを発表しますが、国による消費者特性の差に比べたら、それは本当に小さい差なんですね。

消費者特性というのは、消費の成熟度と関係する気がしますが。

例えば、中国と比較する場合は、そういうことも考慮する必要があるでしょうが、フランスもアメリカも先進国で、市場も成熟している。しかし、例えば商品の多様性ということでみても、フランスが最も低くて、アメリカはその中間という感じです。もちろん、1人当たりのGDPを見れば何が売れるかわかるという部分もありますが、それを抜きにしても、国によって消費者特性には差があると思いますね。

日本の消費者の特性

そういう日本の消費者特性とは、どういう点にあるのでしょうか。

昔から言われていることですが、まず「商品選択基準が厳しい」ということがあります。20年前に書かれたマーケティングの本にも、P&Gが紙おむつの新製品テストを日本でやるのは日本の主婦が一番厳しい消費者だからだという話が出てきます。日本の主婦に受け入れられる製品なら世界中で売れる。日本の消費者は、それぐらい商品選択基準に厳しい消費者なのです。

具体的にいうと、どういう点が厳しいのでしょうか。

まず、製品のちょっとした傷でもすぐクレームをつけるということがあります。セブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文会長は中央大学の出身で、この間まで大学の理事長もされていたのですが、鈴木氏は、日本の消費者はジャケットのボタンホールのかがりが少しずれているだけで、「不良品だ」と言って返品すると言っていますね。

欧米のGMSの日本進出が話題になった7、8年前にも、鈴木氏は「外資は日本では成功しない」と予想していました。

実はイトーヨーカ堂は10年ちょっと前に一度ウォルマートと提携したことがあって、アメリカで売っているプライベートブランドを日本に持ってきて売ろうとしたことがあったんですね。

わかりやすい例で言うと、その中に写真立てがあったのですが、安くて、デザインもそれほど悪くない。ところが、裏側がホッチキスで止めてあって、針がそのまま出ていた。日本の製品だったら、その上にシールを貼って隠すのが常識ですが、アメリカ人に言わせると、裏は見えないからいいだろうということなんです。でも、日本の消費者は、そういう細かいところまで気にする。ウォルマートのプライベートブランドは全然売れなかったんですね。

また、輸入車の代理店も他の国なら販売だけでいいのでしょうが、日本の場合は、例えばベンツだったらドアが閉るときにいい音がするように再調整するとか、細かい傷まで徹底的に直さないと売れないと言われています。

2つ目の特色は、新しいものが好きだということです。食品に鮮度を求めるということもそうですし、新製品やお店ができれば、とりあえず関心を示すということがあります。

「GAP」「ZARA」に続いて、売上高世界3位のスウェーデンの衣料品ブランド「H&M」が今年9月に銀座に1号店をオープンしましたが、はたしてどうなるかですね。最初は行ってみようということで、お客さんは詰めかけます。日本の消費者は新しいものが好きなので、すぐ飛びつくのですが、別の店ができれば、それにまた飛びつくところがある。だから、H&Mの成功は、絶えず新しいものを出し続けられるかにかかっていると思いますね。

新しさというのは製品に限ったことではなく、店舗にも言えます。同じ銀座にあるソニープラザは07年3月に店名を「プラザ」に変えましたが、2週間おきにテーマを変えて、店内を模様替えしてプロモーション展開をしています。商品がいいというのは当たり前で、目新しさも常に求められるのが日本の市場なんですね。

3つ目は、先ほど言った多様な商品バリエーションを好むという特徴です。品数が多くないと日本人は満足しないところがあるんですね。

4つ目は、ブランド志向が強いということです。ルイ・ヴィトンやグッチがいい例です。モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン・グループ(LVMH)のファッション部門の国別売上高シェアを見ると、日本は06年26%、ユーロ高になった07年は縮小しましたが、それでも22%を占めています。

最近は中国がこうしたブランド市場として急成長してきて、日本では一目でわかる『マス・ラグジュアリ(大衆的なぜいたく品)』から距離をおこうとする人たちも出てきたと言われていますが、全体的には「ブランド志向」が強いと言えると思いますね。

5つ目は流行志向です。新しもの好きとも関連しますが、人気のお店もあっという間に変わります。

そういったところが、日本の消費者の特徴だと思いますね。

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