
日本の消費者に流行志向が強い要因の1つには、先ほどの規範のなさとも関連しますが、感情型購買行動が多いということがあると思います。客観的判断基準なしに感覚やセンスで商品を選択しがちだということです。
もう1つは、他人の影響を受けやすいという日本人の「集団主義」も要因になっていると思います。ほかの人が買っていると「私も買わなきゃ」という意識になりやすいんですね。
日本人が集団主義であるという指摘は、ベネディクトが48年に『菊と刀』で提出した「恥」の概念に始まって、「タテ社会」「イエ社会」などいろいろな人が、さまざまな角度から指摘しています(図2)。
この集団主義には2つの側面があると思うんです。1つは周りに合わせるということです。滅私奉公して家のために尽くす、会社のために頑張るという側面がある。2つ目は、社会学者の土居健郎氏が『甘えの構造』で指摘した周囲に甘えるという側面です。前者は、ほかの人に合わせるという購買行動を生み、後者はほかの人と同じ購買行動をとれば安心という心理を生んでいると思うんですね。
選択肢の多様性を好むのが日本の消費特性の1つだと先ほど言いましたが、そこにほかの人と同じ行動をとる集団主義が働くとどういうことになるかというと、「流行がめまぐるしく変わる」ということが起こるわけです。誰かがデザインのちょっと違うものを買う。すると、それを見た人は、「私も」となりがちです。

例えば「私たちの生活にとってこれからの情報社会はプラスになるか」という質問に対して、日本人ならほぼ全員肯定的に答えると思うのですが、フランスでは「そう思わない」という人が2割くらいいます。どんな設問にも、そういう人たちがいるんですね。フランス人は、自分に合うデザインや色といった意識をしっかり持っている人が多い気がします。
中国の場合は、「関係主義」です。早稲田大学の園田茂人教授がアジア的な人間関係を説明するために作った言葉ですが、自分の関係ある人のことを考えて行動することを「関係主義」と言います。
中国では、自分のおじさんのためとか、親しい友人のためには努力しますが、会社のために滅私奉公するという考えはあまりしません。単純な個人主義でもなく、かといって集団主義でもない。製品にも日本人ほど多様性は求めないし、他人の影響も日本人ほどには受けません。欧米と日本の中間ぐらいの感じです。日本の消費者の集団主義というのは、そうした国とは明らかに違う特徴だと思います。
今まで見てきたように、元々、品質にうるさいとか、流行に左右されやすい素質はあったのですが、それが目に見える形になってきたのは50年代後半から始まった高度成長期を経て80年前後、日本が低成長期に入って成熟社会になってからだと思いますね。
その大きな要因には、企業と消費者の情報格差がなくなったことがあると思います。消費に関する情報量は高度成長期には完全に企業優位でしたが、80年以降の低成長期になると少しずつ状況が変わってきます。
生活も豊かになり、人々はさまざまな消費経験を積んでいきます。しかし、この時点でも消費に関する情報量は、企業の方が多く持っていたと思います。
それが今世紀に入ってインターネットが急速に発展し、企業と消費者の持っている情報量にほとんど差がなくなってきて、場合によっては消費者の方がより多くの情報を持っているものも出てきた。「情報の非対称性」がなくなったんですね。
01年にスティグリッツ、アカロフ、スペンスの3人が「非対称性の理論」でノーベル経済学賞を受賞しているのですが、この問題は時代のキーワードだと言えます。元々経済学は、完全情報・完全競争、つまり企業と消費者双方が何でも知っているという前提で作られていました。消費者はどの商品がどこで売られているか、一番安いところはどこかも知っている。企業も原材料の入手はどこが一番安いかもわかっていれば、消費者のニーズも完全にわかっている。そういう前提で作られたのが、これまでの経済学です。それはおかしいというので考えられたのが「非対称性の理論」なんですね。
事故米不正転売問題も、自動車の欠陥隠しも、情報の非対称性があるから起こるわけですが、最近は企業が故意に情報を隠蔽しようとしても、内部告発で表面化するようになってきました。また、商品情報やそれを実際に使った感想も、商品比較サイトや個人のブログを見ればものすごい情報量が得られる時代になっています。
最近の消費者は消費経験だけでなく知識も高度化しています。以前は銀座のフランス料理店に行ってワインの値段に驚いていた消費者が、最近はパリの三つ星レストランに行って「なんでこのワインないの?」と言えるまでになった。企業と消費者の情報格差がなくなったと言うのが、今だと思います。
豊かな消費経験と情報、高度な知識を身につけた商品の品質に厳しいタフな消費者、しかも流行に対してイージーで、それがめまぐるしく変わる。それが今の日本の消費者だと思いますね。