
そういう言い方もできます。今の消費者には、自分のニーズがわからなくて、商品にそこそこ満足しているところがあります。消費者に「何が不満ですか」と聞いても自覚的ではなくて、「でも、もっといいものがあったら買う」という人がほとんどです。
高度成長期に「あなたは現在の生活に満足してますか」と5段階尺度で聞いたら、おそらく「あまり満足していない」が多かったと思います。隣の家には車があるけど、うちにはないという状況でした。ところが、今はみんな「だいたい満足している」と答えるはずです。
法政大学大学院の嶋口充輝教授は、高度成長期の消費者は生活に対して「ディスサティスファクション(不満)」だったが、今は「アンサティスファクション(満足でない)」状態だと言っています。車を持っていても、もっといい車があるのではないかと思う。デジカメを持っていても、さらにいいデジカメがあるはずだと思う。やや不満な人を満足させるのはたやすいですが、やや満足な人を満足させるのは非常に難しいことです。
ニーズ対応とコンセプト提案のほかに、こうした状況に対応するアプローチとしては、「カスタマー・コンピタンス」という考え方があります。コア・コンピタンスを提唱したプラハラードが提示した概念ですが、顧客を取り込んで自社の強みにしてしまおうという考え方です。
「コア・コンピタンス」というのは、例えば、家電メーカーなら液晶技術、自動車メーカーならハイブリッド車の技術など競合他社に真似できない技術を中核に経営を考えていこうという考え方です。
その次にあるのが「チャネル・コンピタンス」です。プラハラードはチャネル・コンピタスという言葉は使っていませんが、取引先の力を自社の力にするということです。トヨタやパナソニックがそうですが、販売店網が競争力になっている企業もあります。
プラハラードの「カスタマー・コンピタンス」というのは、さらにその考えを一歩進めて、顧客を自社の力にしてしまおうという考えです。先ほども言いましたが、最近の消費者は、商品について高知識の人が増えています。その力を活用しようということです。
ソフトウェア開発では、実際そういうことが行われています。マイクロソフトのウィンドウズ2000の開発でも、発売前にβ版を全世界で65万人に配布したと言われています。世界で65万人ぐらいパソコンオタクがいるということなのでしょうが、その人たちにβ版をマイクロソフトのサイトからダウンロードしてもらって、不具合や使いにくさ、欲しい機能などを聞いて製品を完成させていったんですね。
こうした動きがIT企業以外でも出てきています。消費者参加型製品開発と言いますが、無印良品が代表的な例です。ジャスコの「お客さま副店長」も、それに近い考え方だと思います。この棚がちょっとおかしいとか、この通路が通りにくいとか、そういう主婦の声を売り場に生かしていこうという取り組みです。セレクトショップのビームスもお客さんの中でセンスがいい人がいたら、何人か集めて話を聞くということをしています。
最近は、パソコン、ファッション、料理など、いろいろな分野に高知識の消費者が増えています。そういう人たちをうまく取り込めば、それが企業の競争力になるというのがカスタマー・コンピタンスの考え方です。

日本人論というのは昔からあって、これまでも何度かブームがありました。しかし、それは欧米とは文化の違う日本が経済的に成功して、先進国の仲間入りしたのはなぜか、という視点からのものでした。消費の話はそこにはなかった。それを明らかにしようと研究してきたのですが、まだ未解明なところもあります。
例えば、消費者の環境に対する意識と日本人が古来から持っている自然観との関係も、今後研究してみたいテーマです。
日本人の自然観は「自然と一体」というものです。ヨーロッパも実はギリシャ時代までは同じような自然観を持っていたのですが、キリスト教が広まったことによって、そういう考え方は失われてしまったんですね。キリスト教的な世界観というのは、創造主である神が作った世界を人間が支配するというもので、動物も自然も、完全に人間より下位に位置づけられています。対象物としての自然をどう利用するかということなんですね。
日本の場合は古事記、日本書記の時代から、神々も自然の一部でした。それが仏教が入ってきて、全ての物に仏の心が宿るという考え方にまで至って、自然と人間は一心同体という自然観が作られてきたのです。そう考えると、エコの時代というのは実は日本人に非常に合った時代だという気がするんですね。
もう1つは、当初からの目的でもあったグローバルな消費者特性の研究をさらに深めることです。グローバルマーケティングが言われ出した80年代初めころは、先進国では消費者の好みは変わらなくなり、世界の市場は1つになると言われていましたが、実際はそうはならなかった。企業活動がグローバルになればなるほど、ローカルの価値が再認識されてきています。そうした国際比較を通して、日本の消費特性もさらに見えてくると思います。