見えない顧客ニーズをつかむ組織の作り方

競争優位という考え方の台頭

「顧客の創造」が大事だと言うのは、最近になって言われ出したことだと思っていたのですが。

顧客志向は昔から言われていることです。4P理論が言われ出した60年代のマーケティングも、経営のテーマはほぼ顧客志向だったのです。ただ、市場にまだフロンティアがたくさんあった50年代と違って、競争環境という考え方が生まれてきて、差別化が必要であるという話になってきました。

60年代のマーケティングは、ミドルマネジメントの管理技術という側面はあっても、基本は顧客志向だったわけですね。

そうです。それが、70年代後半になってくると、高度成長は影をひそめ、環境問題なども登場して、市場というパイは限られたものであるという考えが出てきて、競争環境というとらえ方が重要であると思われるようになったわけです。企業の価値を高めるためには、競争優位を高めるしかないという信念が台頭しました。

マイケル・ポーターに代表される競争優位の戦略という考え方は、このとき隆盛を極めました。戦略市場経営が重要であり、企業が成長していくためには、シェア争いに勝利するしかないという戦争型の競争が重要とされたのです。

消費者をリーダー、チャレンジャー、ニッチャー、フォロワーに分割する考え方や、ROI(投資収益率)が重視され、そのROIを高めるにはシェアを大きくしなければならないと言われ始めたのがこのころです。

「戦争型」から「恋愛型」へ

先生は、企業の競争環境が、最近はシェア争いの「戦争型」から顧客とのリレーションシップを重視する「恋愛型」に変わってきたと言われていますね。

戦争型から恋愛型の競争へ

競争優位という概念は、今でもマーケティング戦略で重要だと思います。ただ、2000年ごろを境にして、その中身はずいぶんと変わってきました。1つの大きな変化は、それまでの市場シェアをベースとした「戦争型の競争」のウエイトがだんだんと低くなり、それに代わって「恋愛型の競争」が重視されてきたことです。言い換えれば、競合他社との相対的な競争ではなく、顧客との間の絶対的な競争にそのウエイトが移ってきたんですね。なぜなら、いくら相手を叩いても、肝心の顧客から好かれなければ意味がない時代になってきているからです。

なぜそうなったかというと、現代の競争は、以前と違って競争相手がはっきりわからなくなっているからです。同じ業界のナンバーワンに打ち勝つといった単純な競争の図式が、見当たらなくなっているんです。

例えば、コンビニとファストフードは“中食”という部分で競合になります。食生活という軸でとらえれば、“内食”を担っていたスーパーも、ミールソリューションで“中食”に進出してきました。“内食”や“外食”との差別化から生まれたはずの中食産業自体が、それらと競合関係になってきたのです。

こうなると、競合に対する競争優位という考え方は非常に難しくなります。そこでもう一度、原点である顧客に意識を戻すべきだという話になっていったわけです。日本でも、そういう傾向が顕著になってきたので、私は恋愛型競争の時代になったと言い始めたわけです。

競争の仕組みが大事な時代

その恋愛型競争というのは、具体的にどういうものなのですか。

戦争型から恋愛型というのは、非常にシンボリックな意味で言っています。恋愛といっても、最近はいろいろな形の恋愛がありますが、私が言っている「恋愛型」というのは、ちょっとクラシックな恋愛です。最終的には、顧客と長期的なリレーションシップを構築し、お互いが満足できて、そしてよき夫婦になっていく、そういうプロセスの恋愛です。

そのためには、「あっちの店よりも安い」「そっちよりも品揃えがいい」「こっちの商品が優れている」などという1つ1つの差別化ではなくて、仕組みが大事になってきます。顧客の視点からニーズをしっかりとらえていく、顧客と長くつきあうための制度を整えるなど、仕組みで競争する時代になっているのです。

嶋口氏写真

実際に、戦争型と恋愛型では業績に差が出ているのですか。

日本マーケティング協会で2000年と2004年の2回にわたり、21世紀の優良な事業展開の課題とあり方を探ろうという目的で「マーケティング・イノベーション21」という企業経営者を対象にした大規模調査を行いました。その結果でも、業績の良いところほど顧客志向型で、業績がもう一歩のところほどライバルとの関係やシェアを重視する割合が高いという結果が出ています。

恋愛というのは、相手の立場になって思いやりを持って対応することです。リレーションシップ、つまり関係性を大切にしていかなければいけない。それから、恋愛というのはパートナーシップですから、顧客と同じ目線で対話し、新しいソリューションや価値を作っていくことも重要です。

競争に優位を築くためには、成功事例と自らの現状課題を比較し、改善や改革の方向性を見出す「ベンチマーキング」や、顧客に対して組織内外の最高のアプローチを行っている実践例を見つけ出し、それに学ぶという「ベストプラクティス」を探すことが求められている。そういう時代になっていると思います。

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