日本のショッピングセンターをサスティナブルな生産流通起点に

野菜PBという考え方

産直野菜のPBというのは具体的にはどういうことですか。

それをやったのが、アメリカのオーガニックスーパー「ホールフーズ・マーケット」です。1980年に開業し、売上高1兆円に達しています。大規模な野菜農場と有機野菜を継続取引し、自然化粧品やサプリメントなどのHBC(注)、牛乳やオレンジジュースなどの飲料、冷凍食品などの高粗利商品もPB化しています。

日本の大手流通チェーンでも、すでに同じような取り組みを始めていますが、そういうことこそ食品スーパーが取り組まなければいけないことだと思います。

日本の消費者は、品質にうるさいだけではなくて、飽きっぽい。だから、いつも同じ商品が棚に並んでいたら、買わない。昨日と今日では、棚に並んでいるものがちょっと変わって欲しいと思うのが日本人です。同じPBだと、すぐ飽きられてしまいますが、野菜なら何もしなくても季節によって変わるわけです。

アメリカ人はスーパーマーケットで食品を買うことを「グローサリーショッピング」と言います。グローサリーというのは、日本語で“加工食品”といった意味です。日本人は、そういう感覚ではスーパーに買い物に行きません。“食材”を買いに行っているんですね。新鮮な野菜や生きのいい魚を買いに行くという感覚です。

アメリカ人の食に対するこだわりのなさは日本人には理解しにくいですが、オーストラリアでも似たような経験があります。シドニー大学の講師に45日間行っていたことがあるのですが、その時、ホテルの中庭にあるコテージを借りたのです。その朝食が30日間まったく同じでした。日本のホテルなら絶対にあり得ないことです。

ECサイトの発展も、今後、小売業に影響を与えると思うのですが。

ネット販売は、ほぼ結論が見えてきたと思いますね。確かにネットは今伸びていて、2008年度の通信販売業界全体の売上高4兆円強の内、4分の1はネット通販と言われています。BtoC EC(消費者向け電子商取引)全体で見ても、7兆円の市場規模になってきています。ただ、消費者の買い物がすべてネットに移行するかというと、絶対にそうならない。小売業全体で見れば、日本では売り上げの2割ぐらいが上限だと思います。

日本人とアメリカ人の1番大きな違いは、買い物に対する態度です。グローサリーショッピングに象徴されるように、アメリカ人は基本的に買い物が嫌いなのです。時間の無駄だと思っている。車で20分、30分運転しないとショッピングセンターがない所に住んでいる人たちにとって、買い物は苦痛なんです。それに、お店にはいつ行っても、同じものしか置いてない。日本のようにエンドが頻繁に変わったり、3か月に1回ずつ棚が変わるということもありません。

日本人は、商品を目で見て、臭いを嗅いで、触って、試食をすすめる販売員が肉やソーセージをジュージュー焼いているのを見て、「おっ、おいしそうだ」と思って買う。その違いです。

日本の商品開発力を海外へ

今後の日本の小売業は、どういう方向に進むべきだと思いますか。

日本企業がアジアの新興国の経済発展にどう貢献できるかという視点も重要だと思います。これまで日本は、アメリカからマーケティングを教えられ、商品開発を教えられる立場でした。量販店のオペレーションやショッピングセンターも同様です。しかし、そろそろ逆の立場、逆輸出をする時期になってきたと私は考えています。

確かに、日本経済は今は少し弱くなっていますが、商品開発力はある。商品回りの発想力は、日本はグローバルに通用するものを持っていると思います。実は、最初は海外から入ってきた商品を日本人が改良して逆輸出しているモノがたくさんあります。

例えば、紙オムツです。プロクター・アンド・ギャンブルが、日本で紙オムツを発売したときにはパルプ製でした。しかし、パルプは吸水性もそれほど高くなく、肌の弱い日本の赤ちゃんには不向きでした。パルプを吸水性の高いポリマーに代えたのは日本のメーカーです。それをプロクター・アンド・ギャンブルが取り入れて、世界中の紙オムツがポリマー製になったのです。

それから、缶コーヒーも日本の発明です。最初の缶コーヒーは、日本コカ・コーラが発売した「ジョージア」ですが、日本法人の日本人社員が中心になって作ったものです。ジョンソン&ジョンソンのバンドエイドも日本で改良されたものが、世界中に広まっています。日本人は、そういう改良が得意なんですね。

また、日本の寿司やアニメは世界中で受け入れられています。フランスでは以前から寿司は人気で、パリに行くとテイクアウトの寿司屋が多いことにびっくりします。ところが、最近はアメリカ人も寿司を食べるようになってきた。それだけでなく、和菓子も食べるようになってきているんですね。食にこだわらないアメリカ人もやっとわかってきたな(笑)、と思うわけですよ。

また、世界に通用するビジネスモデルとしては、セブンイレブンもあれば、世界最大の気象情報会社に成長したウェザーニューズもある。これからは日本発の商品、日本発のサービス、日本発のビジネスモデルがもっと外へ出て行くはずです。

僕が言っているのは、“輸出”ではなく、日本が持っている商品の作り方やアイデアを海外に“移転”することです。アメリカ人がやってきたことを、これから日本人がやればいいということなんです。

ただし、アメリカ流と違うのは、それがエネルギーの消費量がとことん少ない、シンプルで、作りが丁寧で、無駄を省いたモノやサービス、ビジネスの仕組みであることです。そういうこだわりは、日本人が昔から得意だったと思うのです。

サービスドミナントと静脈系

マーケティングの考え方も、これまでとは変わってきそうですね。

はじめにも言ったように、アメリカで生まれたマーケティングの枠組みを超える時期にきているというのが僕の考えです。そこで今の関心事になっているのが、「サービス・ドミナント・ロジック(SLD)」と「動脈系・静脈系マーケティング」という考え方です。

まずサービス・ドミナント・ロジックですが、これまでのマーケティングはモノを大量に作って、どうやって売りさばくかということから出発しています。そのモノの対極にあるのが、サービスです。サービスはモノと違って、その場に行かないと受けられない、品質が一定でない、ストックできないなどの特性があり、これまでのマーケティングでは、モノとサービスを別々に扱ってきました。

しかし、例えば、美容室に行ったときを思い浮かべればわかりますが、リラックスできる音楽を耳にしながら、座り心地のいいセットイスに座り、シャンプーで髪を洗ってもらい、ハサミで髪をカットしてもらうなど、一連のプロセスの中で、モノやサービスが投入されていきます。

つまり、モノやサービスをバランスよくインプットすることによって、「ヘアカット」という“事柄”がアウトプットされる。元々、モノやサービスは、顧客の問題を解決するための手段です。両者を区別することにあまり意味はありません。

それなら、モノも、サービスもすべてサービスである=サービス・ドミナントで考えようというのが、サービス・ドミナント・ロジックです。別の言い方をすると、今までのマーケティングの枠組みを「顧客の問題解決プロセス」として再構築しようという考え方です。

動脈系・静脈系というのは、どういう考え方ですか。

20世紀のマーケティングシステムの基本的な構図

人の身体と同じように、マーケティングにも動脈系と静脈系、2つのシステムが必要だということです。人間が使用、あるいは消費するモノやサービスを生み出すのが「動脈系」の役割です。これまでのマーケティングはこの「動脈系」だけだったのです。20世紀前半の産業を牽引した重厚長大産業を筆頭に、我々はこれまで環境や生態系への負荷を考えずにモノを作り続けてきました。エネルギーと資源は無限で、廃棄物も自然に分解されるだろうという大前提に立っていたからです。

マーケティング体系も、この動脈系中心に作られてきました。欧米の典型的なマーケティングのテキストには、マーケティングシステムの基本的な構図が描かれています。それを見ると、財の流れは、部品や材料を提供する「供給業者」から、製品を作る「メーカー」、卸・小売りなどの「中間業者」、財を消費・使用する「最終需要者」へと一方向に描かれています。しかも、「環境」は、この流れの外側に置かれていて、物質の循環やエネルギーの再利用などはどこにも描かれていません。これが20世紀のマーケティングの世界観です。

しかし、そういう発想はもう限界にきていることは明らかです。商品を生み出す動脈系だけでなく、これからは、廃棄やリサイクルといった回収作業を担うマーケティング体系が必要なのです。それを僕は「静脈系」と呼んでいます。

静脈系マーケティングは、CSR(企業の社会的責任)や環境マーケティングと、どう違うのですか。

CSRは経営論からのアプローチですし、環境マーケティングは僕の言う静脈系に近いですが、マーケティング体系全体を考慮していません。動脈系と静脈系のマーケティングがバランスよく機能し、サスティナブルな世の中を作っていく。今後は、そういうマーケティングの枠組み考えるべきだと思っています。

もう少し具体的に言うと、静脈系マーケティングは、資源や熱エネルギーの効率的な還流や、農産物や工業製品のトレーサビリティを確保する仕組みをデザインするという方向になると思います。資源リサイクルやバイオマスなどのエネルギー素材を効率よく流通させるためのインセンティブを生み出す仕組みづくりも、その役割になるはずです。そういう実際のビジネスとしてきちんと回していけるような学問の体系にしていかなければいけないと思っています。

サスティナブルな生産流通へ

ショッピングセンターから、ずいぶん話が遠い所に来てしまいましたが。

これからのショッピングセンターはどうあるべきか、という点では関連していると思います。昔の日本やヨーロッパは農工商が小さい地域の中で閉じている自給自足の世界だったと言いましたが、僕は、静脈系の理想郷は人が密に暮らしているアジアやヨーロッパにあると思っています。人が疎に暮らしているアメリカのような国では、物質循環という発想は生まれにくいのです。

実際、江戸時代の日本や産業革命前の近世ヨーロッパは、地場製造業と流通サービスがバランスよく発達していました。それが、黒船来襲やヨーロッパの列強間の争いでバランスを崩していった。当時のグローバリゼーションが、物質循環の均衡を崩していったのです。

ショッピングセンターは、アメリカが作った人工的な街です。しかし、そこに例えばPB野菜を入れることで、地域の中に循環が生まれてくる。それは、ショッピングセンターや食品スーパーが個性を持つと同時に、サスティナブルな生産流通の起点になるということでもあるのです。

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