
不況だから、モノが売れないのだろうか。消費者が「買う」という行動を起こすには、「買えるか買えないか」の前に「買いたいか買いたくないか」のハードルがあると指摘するのは、オラクルひと・しくみ研究所の小阪裕司氏だ。消費者の動機と購買プロセスを結びつけた「買いたくなる仕組み」の作り方とは何か。
研究は現場の実践が伴わないことが多いですし、実践の現場は理論的バックボーンがちゃんとしていないことが多く、両方に足を突っ込んでいるんです。2000年から私の理論と手法を実践する企業の会を主宰していますが、会員企業は今、1500社ほどで、上場企業から町の商店まで、大変幅広いことが特色です。当初は小売サービス業が中心だったのですが、最近はメーカーが増えてきています。
やはり、最近の皆さんの共通の悩みは、「売れない」ということです。いろいろ対策は打っているが、今までのやり方が通用しない。何をしたらいいかわからないということで、参加される方が多いですね。
2つあると思います。1つは、今までのビジネスの見方やマーケティングの考え方、つまりビジネスフレームが通用しなくなったこと。もう1つは、消費者の変化です。この2つが掛け算になって、今の「売れない」という状況を作っているというのが私たちの考えです。
モノが売れない時に、これまでは「商品が悪いのではないか」「競合と比較して価格が高いのではないか」という見方をしていたと思うのです。そういうビジネスの考え方、フレームが通用しなくなってきたのです。
では、どうすればいいかですが、「売れない」ということを視点を変えれば、お客さんが「行動していない」とも言えるわけです。お客さんが行動しないのは、買いたい動機がないからです。では、動機はどう作ればいいのかと考える。それが私たちのアプローチです。
消費者の変化とも関連するのですが、最近は消費者のニーズが多様になったとよく言われますね。特に日本の消費者は、消費感性が高いと言われています。感性は人それぞれですから、感性で商品を選ぶようになれば、ニーズが多様になるのは当然です。
しかし、これも見方だと思うのです。“待ちの商売”をやっているから、多様なニーズがあるように見えるということなんです。多様な顧客ニーズにワンツーワンで対応しようと思っても、あまりにも細分化してしまって対応できない。では、どうするかですが、「この商品、すごいと思わない?」「これ、素敵だと思わない?」と、こちらから消費者を口説けばいい。つまり、動機づけをすればいいわけです。消費者をどう動機づけるかが、モノを売るカギを握る時代になってきているというのが、私たちの認識です。
講演でもよく話すのですが、「スターウォーズ」のライトセーバーのレプリカ集めが、私の趣味なんです。ビームが出るわけでも何でもなくて、見た目は、30センチぐらいのただの鉄の棒です。
その鉄の棒を見せて、「これを買いたくなった方?」と会場で聞くと、まず手を挙げる人はいない。続いて、「今、皆さんがこれを買いたくないのは、不況だからですか?もし、景気が良くなったら買いますか?」と質問します。もちろん、みなさんの答えは「いいえ」です。

つまり、消費者がその商品を買いたいと思うか、思わないかは、不況とは関係ないということなんです。しかし、不況でモノが売れないのは事実ですし、多くの企業がそれに今、悩んでいます。
実は、人が購買行動を起こすまでには、2つのハードルがあるのです。1つは、今言った「この商品が買いたいか、買いたくないか」というハードルです。これは、不況とは関係ありません。もう1つは、「買えるか、買えないか」というハードルです。不況期にはこの2番目のハードルが上がるのです。だから、モノが売れにくくなるということです。
それは、そう思います。来年はボーナスが出るかわからないとなると、高額商品の方が、買い控えの対象になりやすいということはあるでしょう。
しかし、この不況期でも、商品の値段にかかわらず売れるものは売れています。私たちの会員企業でも、宝石店や呉服店で大きく売り上げを伸ばしているところがあります。一般には、不況の影響をもろに受けそうな業種ですが、売れている。
そういう現場を見ていて思うのは、人はその商品を本当に買いたくなったら、買えるように工夫するということです。第1のハードルをクリアすれば、第2のハードルは自然に下がっていくとも言えるんですね。
確かに今の日本は、あまりモノを持たなくても暮らしていけるくらい便利で豊かになっています。物質的な意味での必需品はないと言えるかもしれません。しかし、その一方で、心の充足を求めるようになったことも確かです。心を豊かにしたり、毎日を充実させるものが、現代人にとっては必需品なのです。
ただ、それが人によって違う。自分の心を満たしてくれるものがハーレーダビッドソンであれば、人は景気とは関係なく、ほかの消費を切り詰めてもハーレーを買う。自分の心を満たしてくれるものであれば、呉服や宝飾品にも、それは言えることです。
逆に言えば、自分にとってそれが必要な商品だと思ってもらう。それが、私の言っている「買いたい!」のスイッチを押すということです。そのためには、まず、消費者が買うという行動に至るまでに、どういうプロセスがあるかを知る必要があります。