動機を知れば、消費者は動かせる

お金に不自由していない層まで買い控えをする不安の時代に、消費者を動かすにはどうしたらいいのか。ここ数年、進化心理学、神経科学、行動経済学がマーケティングに取り入れられ、新しい消費者理解が進んでいる。ルディー和子氏の「売り方は類人猿が知っている」は、まさにその視点で書かれた一冊だ。ルディー氏に今の消費者心理にどう対応すべきかを聞いた。

嵐に慣れてしまった消費者

現在の消費状況をどうとらえていますか。

消費者の不安は解消されるどころか増大するばかりだと思いますね。2008年のリーマンショックが収まるかと思ったところに、ヨーロッパの経財危機です。これまでの景気のサイクルというのは、下がってもいつかは上がることが確信できたのですが、今の景気は、上がったような下がったような感じで、どうもはっきりしない。それが消費者心理にも影響していると思います。

景気がよくなったというのは、消費の動向を見ていてもわかるものなのですか。

これまでのパターンだと、そろそろ景気がよくなる兆しが見えてくると、まず、高額品が売れるようになるんです。その後、消費全体が確実に上向いていく。回復のスピードは、その時によりますが、そのパターンは同じでした。今回の消費低迷は、先が見えないというのが、これまでとは違う特徴だと思いますね。

なぜ、消費の低迷は長引いているのでしょうか。

総理大臣がコロコロ変わって、年金もどうなるのかわからない。いつまで我慢すればいいのか、その先はどういう社会になるのか。進むべき未来を示せない今の政治が悪いということも、確かにあります。先が見えていれば、一生懸命勉強してもっと給料の稼げるところに行こうとか、資格を取ろうという意欲も出ます。ところが、今は、嵐が通り過ぎるのを耐えて待つという段階を通り越して、嵐という悪天候に慣れてしまった。我慢できないほど悪い生活をしているわけではないので、消費者は、いまの状況においてそれなりにハッピーな気分になる工夫をしはじめていますね。

消費者が望んでいることは何か

素朴な疑問なんですが、不安があると、なぜ消費は低迷するのでしょうか。

不安な時というのは、人は、消費だけではなく、新しい行動もあまりとりたくないんですね。行動経済学で言う「損失回避性」が強く出るんですね。これをすれば自分にとって得になるというようなチャンスがあっても、損をする可能性がほんの少しでもあれば、現状を維持して何もしないほうを選ぶのです。今の消費者は、不安感が先に立って、論理的思考が妨げられてしまっているんですね。

そうすると、今は「損しませんよ」と訴求したほうがいいということですか。

そのいい例が、最近のネット通販です。例えば、朝9時ごろにケータイに「12時から1時間だけのバーゲン。在庫なくなり次第終了」というメールが送られてくる。つまり、得することを強調するのではなく、「いま買わなければ損しますよ」という言い方をしているわけです。

「〇円引き」という売り方にはみんな飽きがきている。やっていることは同じ値引きですが、言い方が違う。今までとは違うところを押しているんですね。

高額商品を売るのは、さらに難しいのではないでしょうか。

高額商品も売っているところは、ちゃんと売っていますね。ベネッセコーポレーションは、「進研ゼミ高校講座」で、「攻めの宣誓」というキャンペーンを2008年から実施しています。高校生から将来に向けた「攻めの宣誓」を募集し、それをもとに人気アーティストに応援ソングを作ってもらうというものです。

受験は受かるかどうかわからないから、不安なわけです。普通でも第一志望、第二志望で迷って不安なのに、経済危機で親もお金がない。浪人できないから、よけい迷う。そのときに、ベネッセのマーケティングの人は「迷っている不安な人間をやさしく励ますことが良い方法だとは限らない」と考えた。こういうときは強く言ったほうが効果的だというわけです。

キャンペーンサイトには、「迷ってないか、流されてないか、もっと強気で宣言しろ」と書いてある。「第一志望の大学に行くとみんなの前で言っちゃいなさい」。そう強く言ってあげたほうが、不安な受験生はかえって安心して、「迷わず勉強しよう」という気持ちになる。

不確実な時代、不安な時代というのは、消費者の気持をわかった上で、それに同調するのではなくて、強気の命令口調で言ってくれた方が納得するということなんです。

強気の販売が今は有効だと?

それも、今は有効な方法の1つだということです。大事なのは、建前ではなく、消費者が本当に望んでいるものは何かに応えることです。

損失回避性
損失は、同額の利得よりも強く評価される。同じ額の損と得があったとしたら、その損失がもたらす「不満足」は、同額の利得がもたらす「満足」よりも大きく感じられるという人間心理のことをいう。行動経済学から生まれた考え方だが、行動経済学は創設者の1人、カーネマンらが2002年にノーベル経済学賞を受賞したことで注目された。

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