
顧客は自宅ではなく店頭で買う商品を決めている。商品を買うために店頭に行くという前に、買う商品を決めるために店頭に行っているのだ。たとえば、ブランドまで決めて買い物している顧客は、ほんの一握りに過ぎない。
この事実は20年以上も前に明らかになっており、以来、店頭マーケティングの重要性が叫ばれてきたのだが、企業がこのテーマに真剣に取り組み始めたのは、ここ数年のことのようにみえる。
不思議だが、実はそこに合理的な理由はなく、消費者視点に立つより、広告クリエイティブをつくる発信者視点に立ちたいという、企業、もっといえば人の性によるものだという気がする。
それでも姿勢を正すように店頭に目が向き始めたのは、長期にわたる不況で、実際にモノを売る現場への注意が徐々に喚起されてきたからだ。そしてもうひとつ、この間インターネットが普及して、広告の効果が数値化されるようになり、企業が広告に対して冷静になったことが背景にあると思う。
こうして本格化しつつある店頭マーケティングの潮流のなかに、「つぶやきキーワード」の問題意識もある。店頭で買う商品を決める消費者の心理の動きのなかで、購買を決める瞬間あるいはその瞬間を振り返った消費者の言葉を、ここでは「つぶやきキーワード」と呼ぶ。
そして、「つぶやきキーワード」を軸に購買行動の実態を浮かび上がらせ、店頭の販促活動のヒントをつかみたいと考えている。
さて、初回の「つぶやきキーワード」は、店頭で買う商品を決める購買行動の代名詞にもなってきた「衝動買い」だ。
近年行われた店頭調査でも、ブランドを決めて買い物をしている顧客は8%しかいないことが分かっている。アメリカではこれが30%前後になることから、1割に満たない日本の実態は、両者の購買行動の大きな違いを物語っているが、この8%こそは、店頭マーケティングの起点にある事実と言えるだろう。
しかし、この購買行動の事実に驚いた反動か、ここで誤解も生まれた。それは、ブランド想起にあらずんば想起無し、とでもいうように、残りの92%は、十把一からげに“衝動買い”と見なされるきらいがあった。そこで、日本の主婦はきわめて衝動的に買い物をしていると言われたのである。

ところでこの店頭調査では、こうした誤解への配慮がなされていて、ブランド想起以外に、カレーやシチューなどのカテゴリーを決めている場合(カテゴリー想起)、刺身や焼き魚などメニューを決めている場合(メニュー想起)を区別して、それぞれカテゴリー想起が13%、メニュー想起が22%という結果を出している(表1)。ブランド、カテゴリー、メニューの3つの合計を計画購買とすると42%になる。何らかの計画を立てて買い物をしている顧客は42%になるのだ。
次に、計画を立てていない、非計画購買に焦点を当てると、「団欒を楽しみたい」や「簡単に済ませたい」ということも、買い物に当たって考えていることと見なして数値化している。こうして細かに見ていくと、何も考えずに買い物する比率は、4%に過ぎない。いわゆる「衝動買い」に純粋に該当するのは100人中4人に過ぎなかったのだ。
ブランドを決めている顧客も全くの衝動買いもわずかしかいない。大半の顧客は、「簡単に済ませたい」という漠然とした思いから、カレーにしようと具体的に思い浮かべるまでの幅を持ちながら、きわめて短時間のなかで買う商品を決めている。つまり、顧客は店頭での選択肢を前に、瞬時にあれこれ思いをめぐらせて判断しているのである。言い換えれば、実は店頭での顧客への働きかけの余地は大きい。やれることはいっぱいあるはずなのだ。
さて、「衝動買い」である。厳密に「衝動買い」に当たる購買行動は4%に過ぎなくても、「衝動買い」したと振り返る顧客は少なくない。

この場合も、衝動買いとつぶやいているとはいえ、新しいキーホルダーがほしいという欲求を持ちながら商店街を歩いている。そして、腕時計代わりになるというキーホルダー本体とは全く別の使い方に価値を見い出したのが、衝動買いへの引き金になっている。
実は、商品の基本的な価値とは別の「もうひとつの使い方」を見い出したら、それは衝動買いにつながりやすい。香水を肌につけるのではなく枕につけて眠りに着きやすくしたり、タオルを枕カバーに使ったりするのは、そんなもうひとつの使い方の例だ。
また、最近ではブログに書くネタを思いついたときに、そのキーワードを携帯を使って自分のPC用のメールアドレスに送るツワモノもいる。意外な使い方は発見するととても重宝するものだ。商品の基本価値とは別のところに意外な使い方が見つかると、それだけ商品の価値が上がる。それは顧客にとってはお得感に映る。そして意外な使い方を見つけるのは、顧客が大の得意とするところだ。顧客のつぶやきは、衝動買いのヒントになるのである。

「お祝いの前倒し」という言い方は面白い。ふつう「前倒し」という言葉は、売れ行きがいいので生産を前倒しで実行したとか、予約が殺到しているので発売を前倒しで行ったなど、どちらかといえばポジティブな場面で使われる。それで、「お祝いの前倒し」というつぶやきも出てくるのだろう。要するに衝動買いをするための言い訳なのだが、ちゃんと購買に至っているのだ。販促を演出する側が堂々と「お祝いの前倒しに」とやってしまったら反発を買いかねないけれど、さりげなくこの視点をPOPなどのコピーの中に入れるといい。

データは古いけれど、この「1缶買い」という買い方は変わらないし意外にあなどれない。新製品発売のタイミングで商品をトライアルするきっかけになるのが、この1缶の衝動買いなのである。ビールや発泡酒は典型的だけれど、6缶パックやケースなど、大量に買ってもらうことを期待するから、販促策も「量」に目が行きがちだが、最初の購入は、こういう「1缶買い」で試されていることをもっと踏まえていいのではないだろうか。商品をピンで立てる、商品の感想POPを1缶につけて、単独で陳列するなどして、ピンの訴求をするのだ。
「衝動買い」は瞬時決戦だけれど、瞬時に購買心理に働きかけているという意味では奥が深い。消費者のつぶやきに耳を澄ますと、衝動買い喚起の売り場づくりのヒントが見えてくる。
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注:データは、「生活行動日記BLOG」(株式会社ドゥ・ハウス運営)から引用(https://nikkiblog.jp/)
Soichi Kiyama
1963年与論島生まれ。東京工業大学工学部経営工学科卒業後、西武百貨店入社。店舗企画部、池袋店紳士服飾売場を経験。95年ドゥ・ハウスへ。定性リサーチ、クチコミプロモーション、デジタル・マーケティングを推進。常務取締役を経て、現在は独立に向け準備中。