手抜き

1.「手抜き」は、したいけど指摘されたくない

実は、「手抜き(料理)」と銘打った本が何冊も出だしたのはそう昔ではなく、90年代に入ってからのことだ。このタイミングで顕在化した理由を考えると、85年の男女雇用機会均等法の成立が見逃せない出来事として浮かび上がってくる。たとえば、92年の『「徹底」手抜き料理のアイデア222-おいしい料理をスピーディーにつくる』(サンマーク出版)という書名は「時間」をテーマにしていて、働く女性の増加を思わせる。そして2004年には、『手抜き料理の達人奥薗寿子夜9時からのすぐウマ料理』(宝島社)という書名の本が出ているが、料理時間はますます切羽詰まっていて短時間化は欠かせないテーマになっている。

ただ、働く女性の増加だけが「手抜き」を顕在化させたのではないだろう。生活するとは食べることというだけでなく、生活を楽しむことという豊かさが実感できるようになって初めて、「手抜き」は積極的に語られ始めたのだ。

そう考えると、94年の『後ろ指をさされない手抜き料理完全ガイド』(作品社)は、「手抜き」をめぐる気持ちに手を届かせた書名に見えてくる。主婦は、これを「バレずに夕食に出せる」とか、「嫌味なしね」とつぶやいている。「手抜き」では、「バレないこと」、「嫌味を言われないこと」というように、家族に指摘されない(=後ろ指をさされない)ことがポイントなのだ。

2.「自分では作れない」ものを「手作り感」で

「手抜き」したい気持ちが買い物に結びつくのは、単に家族にバレない(指摘されない)というだけでなく、料理上手であると思わせることができるときだ。

つぶやき1

人気のメニューでもうまく作れない主婦にとっては、「手抜き」以上にそれを夕飯に出せることが価値になる。そして、そのとき大切なのは「手作り感」なのだ。それがあってこそ、「手抜き」と指摘されない条件が満たされるからである。

たとえば、若い主婦に悩みを聞いて、「自分では作れない」料理を調べると、この主婦のような買い物動機に添うメニューが見えてくるのではないだろうか。

3.みえみえのときは、豪華・評判もの

「惣菜売場で大きめの海老天とかき揚げを選んだ。帰って天ぷらうどんにしよう。娘は海老好きだから『今日は手抜き?』の嫌味なしね。」と家族の好物にアプローチするのは指摘されないための主婦の買い物作戦だが、その他にも「豪華そう」なことや「評判の」品は「手抜き」でも指摘されないと感じられている。

つぶやき2

つぶやき3

手抜きには見えないよね

パスタソースもパンも手抜きをしていることはバレてしまうのだが、それでも「豪華(そう)」に見えたり、「評判の」と言えたりすることが指摘を受けない予防線になるので購買につながっている。

4.手作り料理が10分でできる

書名のサブタイトルにも「おいしい料理をスピーディーにつくる」とあったが、手作りの場合は短時間でできることを謳うのがいい。しかも“10分で”と具体的に伝えると購買につながりやすくなる。

つぶやき4

いかにもな「手抜き」である「市販の惣菜」は夫も嫌う(「レトルトピザは手抜きだと言い、普段は食べさせてくれない」というつぶやきもあり、夫が手抜きを許さないというケースはまだあるようだ)。しかし「手抜き」もしたい。その解決は、やはり手作り料理が短時間でできるということに尽きる。そして、このつぶやきでは「10分間」という具体的な数値が効いているのが分かる。また、単に短時間でできるというだけでなく、「栄養のバランスがいい」ことが価値として伝わることで購買につながりやすくなっているのも見落とさないでおきたい。

また、たとえば「ちぎりレタスドレッシング」(ダイショー)をめぐるつぶやきを見てみると、料理時間は書かなくても、「千切るだけ」という料理法が自ずと短時間でできることを伝えている。しかも、「千切るだけ」というのは一見「手抜き」に聞こえるが、実は商品名には「ちぎるだけのレタスが実は一番美味しい」というレシピ提案が含まれている。こうなると、「手抜き」は「手抜き」ではなくなり、むしろ望ましい小さな手間という意味になる。主婦は大手を振って手間要らずを謳歌できるので、これは究極の「手抜き」商品、あるいは罪悪感無用の「手抜き」商品だ。

料理の手間を抜く(小さくする)ことがむしろ美味しくすること(よくすること)というアイデアが盛り込まれると、「手抜き」をめぐる買い物も明るくなりそうだ。

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手抜き対応へのヒント

注:データは、「生活行動日記BLOG」(株式会社ドゥ・ハウス運営)から引用(https://nikkiblog.jp/)

Soichi Kiyama
1963年与論島生まれ。東京工業大学工学部経営工学科卒業後、西武百貨店入社。店舗企画部、池袋店紳士服飾売場を経験。95年ドゥ・ハウスへ。定性リサーチ、クチコミプロモーション、デジタル・マーケティングを推進。常務取締役を経て、現在は独立に向け準備中。

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