MONO-LOG.2 小粋なモノ語り

ペン先をインクに浸す。8本の溝に沿って、まるで生きているかのようにインクが上ってくる。毛管現象だ。ガラスペンはこの現象を利用してペン先にインクを溜めている。
「ペン先が命です。先端までね、8本の溝がきちんと通っていないともう筆記具にはならない。いちばん神経をつかうところだね」と佐瀬勇さん。ガラスペンを開発した佐々木定次郎氏の技術を唯一受け継ぐガラスペン職人だ。
滑らかな書き味。インクの持ちの良さ。万年筆のように苦手な向きもない。そして、見た目の美しさ。その機能美ゆえ海外にも広まっていったジャパンオリジナルの筆記用具だ。

「昭和一桁生まれの人なら、誰でも使ったことがあるでしょう。普段使いの筆記用具だったから」
しかし、オイルショックとボールペンの登場で状況が変わる。
決定的だったのはインク壷が姿を消したこと。ほとんどの職人がガラスペン製造をやめてしまい、材料だけが大量に残った。残ったガラスをどうするか……それがペン先と軸を一体化した佐瀬さんオリジナルのガラスペン誕生のきっかけだったという。

本来ペン先用の溝の入ったガラス棒を石油バーナーの炎にかざす。ガラスを常に回しながら均一に熱していく。そして、芯まで融けた一瞬のタイミングでひねる。
「ほとんど指の感覚だね。ひねって、押して、引っ張って模様を作るんです」。8本の溝が美しい波紋に生まれ変わる瞬間だ。
「途中でちょっとひねり方を変えてみたりね。自分の思い通りにできるところが面白い(笑)。新しいデザインを作り出していくことも我々(職人)の仕事ですから」
単に美しいだけでのペンではない。実用性も職人気質も兼ね備えたペンだ。携帯メールを打つ手を止めて、手書きの手紙を書きたくなる。

ガラスペン

●ペン先の8本の溝にインクを溜めるため、ペンをどの方向に回しても滑らかな書き味だ。一度インクをつけると、優にハガキ1枚は書くことができる。「オリジナルひねり」「オールひねり」など一体型ガラスペンは6種類。セル軸のもの、竹軸と、ペン先のセットもある。手作りのため、注文から数ヶ月待ち。

佐瀬さんとご家族

■炎の上や下を使い、加減しながらガラス棒を熱していく。両手三本の指の感覚が頼りだ。ペン先を作るタイミングは一瞬。「息を止めて、一気に引かないとダメだ。ゆっくりやってると溝が融けてなくなる」と佐瀬さん。娘さん夫婦がこの技術を引き継いでいく。
●佐瀬工業所
http://www7.ocn.ne.jp/~glasspen/

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