小売流通業における新店舗オープン時のデジタル媒体選定の考え方~企業のブランドセーフティとターゲティングの優先度の視点から~

来店・来場を目的にした販促を行う企業様には、集客の手段として長年「新聞折込広告」を実施頂いておりますが、近年のデジタルシフトの影響もあり、当社のクライアント様の中にも紙媒体とWeb広告を組み合わせた集客を行うケースが出てきております。
Web広告を実施する際には、広告出稿時に出稿される配信面を管理し、自社のブランド価値を守る「ブランドセーフティ」の取り組みが重要となります。
本記事では、「ブランドセーフティ」が重要視される背景やWeb広告の媒体選定方法について、小売流通業の実施事例を交えて解説します。
1.ブランドセーフティが重要視される背景
1-1:ブランドセーフティとは?
ブランドセーフティとは、広告主のブランドイメージを傷つける恐れがある不適切なサイトやコンテンツ上に広告が表示されることを防ぎ、広告主のブランド価値を守り、安全性を担保する取り組みのことを指します。広告が違法なサイトや不適切なサイトに掲載されると、それを見たユーザーはその広告を出している企業・ブランド・サービスに対してネガティブな印象を持ちます。
そのリスクはデジタル広告市場の成長に伴い、Web広告の配信方法が複雑化し、配信先の管理が難しくなっている現状に起因しています。テレビや新聞といったこれまでのマス広告は広告が配信・掲載される面を把握することができますが、多様な配信先に広告を表示させる運用型のWeb広告では、広告主・広告会社が配信先をすべて把握することはとても困難です。その結果、意図しないサイトに広告が掲載され、ブランドイメージを損なうケースも見られます。また、Web広告を出稿する際に「ブランドセーフティ」の観点を取り入れることは、ブランド価値を守ることにとどまらず、広告費の無駄を防ぐ(無駄なクリック課金等を防ぐ)観点からも重要となります。
1-2:ブランドセーフティ対策の主な方法論
次にWeb広告の配信においてブランドセーフティ対策を行う方法について解説します。
①ブラックリスト(非推奨)配信
広告の配信をするには不適切と判断した配信先への配信を推奨しない「ブラックリスト」として管理し、それらの面に対しての配信を除外した広告配信を行う方法。メリットとしては、配信面を限定しすぎないことで、広告運用単価への悪影響を最低限に抑えられることですが、一方でデメリットとしては、常にブラックリストを更新し続けないと、不適切な配信面を必ずしも除外できない点です。
②ホワイトリスト(推奨)配信
ブラックリスト配信の逆で、配信をするのに信頼に足る配信先のみを「ホワイトリスト」として管理し、その面に対してのみ配信する手法。不適切な配信面への広告掲出を最大限抑えることができるメリットがある一方で、配信面を絞りすぎることで広告運用単価が高騰する可能性があります。
③PMP配信の活用
※Web広告(運用型)において広告がユーザーに届くまでのイメージ
※Web広告(運用型)において広告がユーザーに届くまでのイメージ
※PMP配信活用によるメリットイメージ
※PMP配信活用によるメリットイメージ
PMP(プライベート・マーケット・プレイス)とは一定の審査を基準として、信頼性が高いメディアと広告主のみが使える広告出稿方法を意味します。運用型広告の多くはDSP(Demand Side Platformの略で、広告主が広告運用を最適化するために利用するプラットフォームのこと。その多くがSSPと呼ばれる媒体側のプラットフォームと連携しており、多種多様な広告面に掲出が行われる)を経由して広告配信を行っており、DSPは広告の出稿メディアを選定できないことが課題でした。その為、ブランドセーフティが重要視されるようになると、例えば、位置情報ベンダーの広告配信DSPを経由する場合でも、その配信面をLINEやMeta(Facebook、Instagram)、TVerなど一般に知られている信頼性が高い配信面にしてする手法も近年活用が進んでおります。
④アドフラウド対策ツールの導入
最後に紹介するのがアドフラウド対策ツールの導入です。これは不正な広告クリックや表示を自動で検知・ブロックし、広告費の無駄を減らすために使用されるツールで、ツールの機能には近年「ブランドセーフティ」対策を標準装備しているツールが多くあります。ツールの導入により、ブランドイメージ棄損のリスクを下げると共に、様々なWeb広告のリスクを回避し、広告費の無駄を防ぎ、広告効果を高めることができます。
1-3:主要媒体におけるブランドセーフティの取り組み例
ここでは例としてYahoo!とMetaの取り組みを紹介します。
- ●Yahoo!の場合(https://www.lycbiz.com/jp/strength/yahoo/quality/diamond/brandsafety/より引用)
- 1. ガイドライン
- Yahoo!広告では広告掲載面のコンテンツポリシーとして『広告配信ガイドライン』を設けています。例えば、配信先の掲載面ネットワークから「著作権侵害」や「商標権侵害」が疑われる違法サイトを排除する基準があります。また、社会規範や公序良俗に反する「性に関する表現が露骨」なコンテンツや「反社会的勢力による」コンテンツを取り締まる基準を定めています。加えて、JIAA(一般社団法人 日本インタラクティブ広告協会)と連携し、IHC/CODA(※)といった違法・有害情報サイトやいわゆる海賊版と言われる著作権侵害サイトを即時ブロックする対応も行っています。
※IHC:警察庁 インターネット・ホットラインセンター
※CODA:一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構
2. 事前審査と事後パトロール- ガイドラインの基準を満たすサイトかどうか、広告を掲載する前に専門審査チームで申請のあった全てのサイトを人の目で審査しています。また、該当の配信面で広告掲載がスタートした後も、サイト内のコンテンツは常に増えていくので、専門審査チームのパトロールに加え、システムによるリアルタイム制御も導入し常時監視をしています。
3. リアルタイム検知(Pre-bid制御)- グローバルトップのアドベリフィケーション対策ベンダーであるDoubleVerify(ダブルベリファイ)のPre-bidシステムと連携し、よりリアルタイム性の高い判定制御が導入されています。これにより、ユーザーによる誹謗中傷などの書き込みも24時間常時検知し、不適切と判断されたコンテンツは即座に広告配信をブロックしています。
●Metaの場合- Meta広告(Facebook・Instagram)のブランドセーフティの取り組みとしては主に以下となります。
- ①手動配置:どこに広告を表示するか、もしくは表示しないかを選べる機能。選べる配信面は以下となります。
- ・Messenger
- ・Audience Network
- ②ブロックリスト:表示させたくない場所のリスト(ページ、Instagramアカウント、アプリ等)をアップロードすることで、その箇所への表示を不可にできる機能
- ③インベントリーフィルター:広告表示がなされるコンテンツの状況を調整可能な機能
- ④コンテンツタイプの除外:ライブストリーミングや権利者など、収益化された動画への広告表示を不可にできる機能
- ⑤パブリッシャー許可リスト:広告の配信先となるパブリッシャーを管理することが可能な機能
- ⑥パブリッシャーリスト:広告が配置される可能性があるURLを確認することができる機能
- ⑦配信レポート:パブリッシャーやコンテンツごとにインプレッションレベルを確認することができる機能
- ⑧トピックの除外:ニュースや政治など4種のトピックから、コンテンツレベルで除外対象を選択することが可能な機能
- ⑨コンテンツ許可リスト:信頼できるビジネスパートナーと連携し、配信先としてふさわしい動画のリストを確認しカスタマイズできる機能
2.小売流通業における新店舗販促の出稿媒体選定について
ここからは当社が広告販促をサポートした事例の中で、小売流通業様において、どのように新店舗オープン告知の媒体を選定したかをご紹介します。
該当の小売流通業様は長年、新店舗オープン告知、既存店セール含めて、広告販促には新聞折込広告を活用いただいております。その広告販促で一定の集客効果を上げられていた一方で、都心型店舗においては新聞購読率の低下や、昼夜間人口の兼ね合いでそもそも周辺居住者のみがターゲットになるわけではないケースもあるなど、店舗の状況によって広告手法に課題を抱えていました。
そこで当社からは都心型で勤務者や来街者もターゲットになり得る新店舗でWeb広告の併用による広告販促手法を提案いたしました。候補になった媒体としては以下のような媒体のうち、ユーザーボリュームの多さの観点から
Google広告(GDN)とLINE広告でした。最終的な判断として、GoogleにしてもLINEにしても店舗商圏内のターゲットリーチの観点や想定クリック単価等には大きな差がなかったこともあり、どちらの方が
●よりターゲット含有率が高いと見込まれるか
●また、ブランドセーフティの観点から企業イメージを守りながら新店舗訴求ができるか
の2軸で媒体選定を行いました。結果として、比較的中高年齢層以上のユーザーがメインターゲットである点からLINEであれば老若男女問わずにユーザーボリュームが担保できる点と、Googleはトップページを持たないことや自社配信面以外への配信面も多いことを踏まえて、配信面のコントロールがより行いやすいLINEを採用頂き、広告展開を行いました。
このように、当社が提案する際には、広告主様の課題感にあった媒体選定、戦略設計を行うことはもちろん、ブランド価値を最大限守りながら、広告展開を行う視点も忘れずにサポートさせていただきます。
※LINE広告 ニュース面実際の配信例
※LINE広告 ニュース面実際の配信例
参考①:https://www.yomiuri-is.co.jp/blog/dl/a59に記載のLINE広告の「配信面のブランドセーフティ」より
LINE広告は、掲載される面がLINEアプリと関連するファミリーアプリが中心になることから、昨今問題になっている広告主様のブランドセーフティの観点からも非常にメリットがあります。ディスプレイ広告やDSPの中には広告主様のイメージを毀損するようなサイト、アプリへの掲出がされているケースもあり、その点の心配が低いということはメリットとなります。
出典:LINEヤフー株式会社媒体資料(2024年4月〜9月)
出典:LINEヤフー株式会社媒体資料(2024年4月〜9月)
参考:②上記広告主様が初めて新店告知でWeb広告を実施された際には、Google広告で良質な配信面に絞って配信可能な「デマンドジェネレーションキャンペーン」(2023年10月~)が一般的な手法として定着する前だったため、LINE広告を採用した背景もあります。2025年現在ではGoogleにおいてブランドセーフティの観点を重要視して広告出稿を希望する際には、「デマンドジェネレーションキャンペーン」を当社としても積極的に活用しております。
※デマンドジェネレーションキャンペーン配信面イメージ
※デマンドジェネレーションキャンペーン配信面イメージ
※デマンドジェネレーションキャンペーン実際の配信例
※デマンドジェネレーションキャンペーン実際の配信例
【事例概要】
小売流通業において、新店舗オープン販促にWeb広告を取り入れた事例となります。広告出稿媒体選定にあたっては「ターゲットボリューム」「ターゲット含有率」といったビジネス効率の観点も取り入れつつ、「ブランドセーフティ」の観点から、Google広告ではなくLINE広告を採用しました。結果、想定を上回る来店につながり、新店オープン時には継続してLINE広告を活用いただいている事例となります。
【記事執筆者】
株式会社読売IS 営業部所属:大和田遼
2013年新卒で入社。5年間大手通信キャリアのエリアマーケティング業務などに従事。その後、6年間の支社営業時に「輸入車ディーラー」「学習塾」「24時間フィットネスジム」「宅食業」などの紙媒体とデジタルをミックスした広告販促にかかわった経験を持つ。サイト、LP制作・SEO対策・広告運用・SNS運用など幅広い領域での営業実務経験を持ち、その経験を活かしたクライアントサポートを得意としている。