「紙なのに、SNSで広がる」?ダンスボーカルグループの折込施策から考える、SNS時代の紙媒体の新しい可能性
1.アルバム発売日に仕掛けた「新聞折込」が話題に
2026年9月16日、ダンスボーカルグループの1st Mini Albumが発売されました。
この発売日に合わせて展開されたプロモーションの中で、広告・マーケティングの視点から特に目を引いたのが、折込広告を活用したプロモーションです。
今回の折込広告は、全国共通の1種類ではありません。
メンバーそれぞれの出身地に合わせ、地域別のデザインを展開。そのほかの地域ではメンバー全員が登場する全国版を配布し、合計6種類の折込広告が用意されました。
しかも、発売日は9月16日。
つまり、「アルバムが発売されるその日に、新聞を開けばグループの広告が入っている」という設計です。
これは折込広告が持つ、ある特徴を非常に分かりやすく活用した施策だと感じます。
それは、「指定した地域に、指定した日に、物理的な広告を届けられる」ということです。
一見すると、SNSや動画広告が中心となった現在のプロモーションにおいて、折込広告は少し意外な選択肢にも見えます。
しかし、今回の施策をもう少し広い視点から見ると、単に「若者向けのコンテンツに紙媒体を使った」という話ではないことが見えてきます。
むしろ私は、この事例から、SNS時代における紙媒体の新しい役割を考えることができるのではないかと思っています。
2.プロモーションは「折込広告だけ」ではない
まず押さえておきたいのは、今回のMini Albumのプロモーションが、折込広告だけで構成されているわけではないということです。
公式発表を見ると、発売日に合わせて、
- • 折込広告
- • 交通広告
- • 地下鉄の大型ボード
- • SNS上での楽曲シェアキャンペーン
- • Apple Music・Spotifyのライブラリ追加キャンペーン
- • 発売記念イベント
- • 店頭・会場での施策
- • ファンクラブ向け施策
など、複数の接点が組み合わされています。
また、アルバム自体も通常盤・初回限定盤に加え、メンバーそれぞれの初回生産限定ソロ盤を用意するなど、ファンがメンバー個人に接触できる設計がされています。
さらに、公式の特設サイトでは、楽曲を聴くことでメンバーのソロジャケットがランダムに切り替わり、
全てを揃えることでオリジナル壁紙をダウンロードできる仕組みも展開されています。
つまり今回のプロモーションは、
リアル接点
×
デジタル接点
×
ファンダム
を組み合わせた設計になっています。
その中で折込広告が担っている役割を考えることが、今回の事例を読み解くポイントになります。
3.なぜ今、デジタル広告全盛の中で「折込広告」なのか?
広告のデジタル化が進んだことで、私たちは生活者一人ひとりに対して、以前より細かなターゲティングを行えるようになりました。
スマートフォンを中心としたデジタル広告では、年齢や性別、興味関心、検索・閲覧行動など、さまざまなシグナルをもとに広告配信を最適化できます。
言い換えれば、デジタル広告は、
「個人を狙う」ことに強い媒体
です。
一方、折込広告の考え方は少し違います。
折込広告では、新聞販売店の配達エリアなどを単位として、地域を面で押さえながら広告を届けます。
もちろん、新聞購読世帯という条件はあります。
しかし、スマートフォンを持つ「個人」に広告を届けるのではなく、その地域にある「世帯」に広告を届けるという構造を持っています。
ここには、デジタル広告とは異なる価値があります。
私は、この違いを「ターゲティング精度の優劣」で捉えるべきではないと思っています。
重要なのは、
そもそもターゲティングする単位が違う
ということです。
4.デジタルが「個」を狙うなら、折込広告は「世帯・生活圏」を押さえる
広告接触の構造をシンプルに整理してみましょう。
デジタル広告は、
個人
↓
スマートフォン・PC
↓
興味関心・行動など
↓
個人への広告配信
という構造を持っています。
一方、折込広告は、
地域
↓
新聞購読世帯
↓
家庭内の生活者
↓
生活圏への接触
という構造を持っています。
この違いは、非常に大きいものです。
例えばSNS広告で「グループに興味を持っている18歳の生活者」に広告を届けることはできます。
しかし、折込広告の場合は、「グループに興味がある18歳」だけを狙うのではありません。
その地域に住む家庭へ広告が入り、そこにいる誰かが目にする。
ファン本人が見るかもしれない。
親が見るかもしれない。
兄弟が見るかもしれない。
そして、ファン本人が新聞を購読していなかったとしても、家族が新聞を購読していれば、広告との接点が生まれる可能性があります。
つまり、
デジタルが「個人への深さ」をつくる媒体だとすれば、折込は「世帯・生活圏への広がり」をつくる媒体
と捉えることができます。
これは、どちらが優れているという話ではありません。
異なる単位で生活者に接触する媒体だからこそ、組み合わせる意味があるということです。
5.折込広告は、ファン本人だけに閉じない「ターゲットウイング」をつくったのではないか
ここからは、今回の施策についての私自身の仮説です。
コアファンとの接点をつくる手段として、SNSや動画、ストリーミングなどデジタル施策は非常に重要です。
一方で、今回の施策を考えるうえでは、「知られ方」が変化していることにも注目したいところです。
楽曲がSNSで大きな反響を呼び、著名歌番組への出場を果たすほど人気が沸騰しました。その後はグループでの音楽番組出演に加え、各メンバーがドラマやバラエティ、情報番組などへ露出を広げたことで、普段アイドルに触れてこなかった層にも広く認知が拡大しました。
つまり、SNSだけではなく、テレビやドラマなどを通じて、これまで積極的にアイドルを追っていなかった生活者にも知られる機会が増えたと考えられます。
ここから先は、今回の折込施策を考えるうえでの仮説です。
テレビなどを通じて認知が広がれば、ファン本人だけではなく、家族や周囲の人が「この人たち知ってる」という状態になる可能性があります。
そう考えると、折込広告という選択肢も少し違って見えてきます。
もちろん、実際の広告出稿意図について公式に明らかにされているわけではありません。そのため、「ファン層が広がったから折込広告を使った」と断定することはできません。
しかし、折込広告という媒体特性から考えると、ファン本人だけではなく、家庭や地域まで接触範囲を広げる「ターゲットウイング」をつくる意図があった可能性は考えられます。
これは「若者向けの商品を高齢者に売る」という意味ではありません。
むしろ、
個人に閉じたターゲティングから、世帯・家族・地域という単位へ接触範囲を広げる。
ということです。
例えば、グループを好きな本人が新聞を購読していなくても、家族が購読していれば折込広告が家庭に入ってくる。
そこで、
「今日、折込広告が入ってたよ」
という会話が生まれるかもしれない。
あるいは、テレビでグループを知った親世代が折込広告を見て、「これ、最近よくテレビに出ているグループだ」と気づくことも考えられます。
こうした接点は、個人の興味関心をもとに広告を配信するデジタル広告とは異なるものです。
グループの認知が広がっていくほど、「本人に届ける」だけでなく、「その周囲にも届ける」という発想が意味を持ってくる。
今回の折込は、そんな「ファンダムの広がり」と「接触単位の広がり」を考えるうえでも興味深い事例ではないでしょうか。
6.そして、今回の折込広告で特に興味深いのが「コレクション性」
もう一つ、今回の施策で見逃せないのが、紙そのものが「残したくなるもの」になっていることです。
今回の折込広告は全国版1種類ではなく、メンバーの出身地に合わせた5種類の地域版と全国版、合計6種類。
つまり、ファンから見れば、
「自分の地域には誰の折込広告が入っているのか」
という楽しみがあります。
さらに、
「ほかの地域には別のメンバー版がある」
という情報を知れば、他の種類も欲しくなる。
ここで、折込広告が単なる「広告」から、コレクションしたくなるアイテムへ変化します。
通常の広告は、
見る
↓
情報を得る
↓
行動する
↓
終わる
という流れになりがちです。
しかし今回のような設計では、
届く
↓
推しを見つける
↓
保存する
↓
ほかの種類も気になる
↓
集める
↓
SNSで共有する
という別の行動が生まれます。
ここに紙媒体の「物理的に存在する」という特徴があります。
デジタル広告は画面上に表示され、スクロールすれば流れていきます。
紙は、手元に残ります。
折り目がついていても、少し傷んでいても、「その日に新聞に入っていた」という出来事と一緒に保存できます。
広告そのものが記念品になる。
これはデジタル広告にはない、紙ならではの価値の一つです。
7.紙が「SNSのコンテンツ」になるという逆転
そして今回、もう一つ注目したいのがSNSとの関係です。
紙媒体については、
「SNSほど拡散しない」
と語られることがあります。
確かに、紙そのものにSNSのようなネットワーク拡散機能があるわけではありません。
しかし、SNS時代には別の現象が起こります。
紙そのものが、SNSに投稿するコンテンツになるのです。
今回の折込広告についても、発売当日にオリコンが「SNSで反響」と報じています。
記事では、折込広告を見たファンの反応として「お母さんに至急確認してもらった」といった声も紹介されています。
ここが非常に面白いところです。
従来の広告では、
SNS
↓
商品・サービスの情報を拡散
という構造を想定しがちでした。
ところが今回は、
紙
↓
ファンが発見
↓
写真を撮る
↓
SNSへ投稿
↓
ほかのファンが見る
↓
「自分の地域はこのメンバーだった」
↓
情報交換・共有
という逆方向の流れが生まれています。
つまり、
紙がSNSの外にあるのではなく、紙がSNS上で新しいコンテンツになる
ということです。
これは、紙媒体の「拡散性」を従来とは違う形で考える必要があることを示しています。
8.さらに、広告だった紙が「欲しいもの」になっていく
今回の施策には、その後の展開もあります。
オフィシャルサイトでは、9月16日に配布された折込広告6枚を1セットにまとめ、数量限定でファンクラブ会員へ届ける企画を実施しました。
本体料金は無料で、送料負担のみという形です。
つまり、発売日に新聞へ折り込まれた広告が、その後、ファンが手元に置いておきたいアイテムとして再提供されることになりました。
この動きは、今回の折込施策を考えるうえで非常に象徴的です。
広告を、
「情報を届けるための紙」
だけではなく、
「ファンが所有したいコンテンツ」
として扱っているからです。
また、フリマサイトでの出品価格や売買件数を、そのまま広告価値に置き換えることも適切ではありません。
しかし、これは、少なくとも一部の折込広告が、広告物としてだけでなく、収集・所有したい対象として扱われていることは確認できます。これは、紙媒体の「保存性」「所有性」「コレクション性」を考えるうえで、興味深い現象です。
9.SNS時代の紙媒体は「SNSに代わるもの」ではなく、「SNSにつながるもの」へ

ここまでの話を整理すると、今回の折込施策から見えてくる紙媒体の価値は、単純な「認知」だけではありません。
私は、大きく4つに整理できると考えています。
- ① 届く
- 地域や世帯を単位として、生活者の手元まで物理的に届ける。
- ② 残る
- デジタル情報とは違い、紙として手元に残る。
- ③ 広がる
- 写真を撮る、SNSへ投稿することで、紙を起点とした二次接触が生まれる。
- ④ つながる
- 地域、ファン、家族、コミュニティなど、人と人との会話や情報交換につながる。
つまり、
紙
↓
所有・保存
↓
撮影・共有
↓
SNS
↓
コミュニティ
という循環が考えられます。
ここでは、紙とデジタルは競争関係ではありません。
紙がデジタルの代わりになるのでもありません。
紙とデジタルで、それぞれ異なる役割を持たせる。
その発想が重要なのではないでしょうか。
10.これからの紙媒体は「何を伝えるか」だけでなく、「どう残るか」を設計する
今回の事例から、紙媒体の企画そのものにも新しい視点を加えられます。
これまでの紙広告では、
- 「何を伝えるか」
- 「どれだけ配るか」
- 「どのエリアに配るか」
が中心でした。
もちろん、これらは現在でも重要です。
しかしSNS時代には、もう一つ、
「その紙を見た人が、その後どうしたくなるか」
まで考える余地があります。
例えば、
- 限定性
- 「今しか手に入らない」
- 地域性
- 「この地域だけのデザイン」
- シリーズ性
- 「複数種類を集めたくなる」
- 所有性
- 「保存しておきたくなる」
- 共有性
- 「SNSで誰かに見せたくなる」
- デジタル接続
- QRコードやSNS、Webキャンペーンなどへつなげる。
こうした設計を組み合わせることで、
「広告を見せる」から「広告そのものを体験してもらう」
という発想へ広げることができます。
これはアイドルやエンターテインメントに限った話ではありません。
店舗の周年企画、地域イベント、観光キャンペーン、食品・飲料、ファッション、スポーツ、商業施設など、「限定性」「地域性」「収集性」をつくれるカテゴリーでは、同じ考え方を応用できる可能性があります。
11.「個」を狙うデジタルと、「面」を押さえる紙。違うからこそ組み合わせられる
今回の折込施策から見えてくるのは、紙媒体が「古い媒体だから再評価された」という単純な話ではありません。
むしろ重要なのは、
- デジタル広告
- → 個人を狙う折込広告
- → 世帯・地域を面で押さえるSNS
- → 個人から個人へ広がる
という、異なる接触構造です。
デジタル広告は、一人ひとりの興味や行動に合わせて接点をつくることができます。
一方、折込は、生活圏を面として捉え、世帯単位で接触をつくることができます。
そして、その紙を見た人がSNSで発信すれば、今度は個人から個人へ情報が広がっていく。
つまり、
「面」から入り、「個」を経由して、「ネットワーク」へ広がる。
そんな接触構造もつくることができます。
だからこそ、これからのメディアプランニングでは、
「紙かデジタルか」
という二択ではなく、
「どの生活者に、どの単位で、どのような接点をつくるのか」
という視点で媒体を考えることが重要になるのではないでしょうか。
12.まとめ|紙媒体の価値は、デジタルの代わりになることではない
今回の折込施策は、折込広告という紙媒体が、SNS時代にも新しい役割を持ち得ることを考えるきっかけになりました。
もちろん、今回の折込広告がアルバム売上にどれだけ寄与したのかは、公開情報だけでは判断できません。
実際、Mini Albumは発売初日に72.5万枚を売り上げ、オリコンデイリーアルバムランキング1位を獲得していますが、これは折込広告だけではなく、商品設計、イベント、デジタル施策、ファン向け施策など、多数の要因が重なった結果です。
だからこそ、今回見るべきなのは単純な売上効果ではありません。
発売日に確実に届く。
地域によってメンバーが変わる。
紙だから保存できる。
複数種類だから集めたくなる。
集めた紙をSNSに投稿する。
その投稿を別のファンが見る。
さらに、広告だった紙そのものが二次流通する。
こうした一連の生活者行動を見ると、紙媒体にはデジタル広告とは異なる価値があることが分かります。
それは、
「個人を精緻に狙うこと」ではなく、世帯や地域という単位で生活者との接点をつくること。
そして、
「一度見せて終わること」ではなく、手元に残り、誰かに見せたくなるものをつくれること。
紙媒体は、SNSに取って代わられる存在ではありません。
むしろSNS時代だからこそ、
「紙を起点に、リアルからデジタルへ生活者の行動をつなげる」
という新しい使い方ができるのではないでしょうか。
読売ISでは
読売ISでは、折込広告をはじめとするリアルメディアと、SNS・Web広告などのデジタルメディアを、それぞれの特性に応じて組み合わせ、生活者との接触構造を踏まえたコミュニケーション設計をご提案しています。
「デジタルだけでは届きにくい生活者へどう接点をつくるか」
「地域・世帯への接触と、個人へのデジタルアプローチをどう組み合わせるか」
「紙を配って終わりにせず、その後のデジタル行動につなげられないか」
これからの広告コミュニケーションでは、媒体ごとの優劣ではなく、それぞれの媒体が持つ「接触単位」と「生活者行動」を組み合わせて設計することが重要になっています。
紙とデジタル。
その間にある新しい接点を、読売ISはこれからも考えていきます。
【記事執筆者プロフィール】
大和田 遼|株式会社読売IS
デジタルマーケティングを中心に、SEO・Web広告・SNS広告などのデジタル施策と、新聞折込・ポスティングなどのリアルメディアを組み合わせたマーケティング設計に携わる。
生活者の行動やメディア接触の変化を捉え、「デジタルかリアルか」という媒体単位ではなく、生活者との接点をどう設計するかという視点から、広告・マーケティングの可能性を発信している。
近年は、AI検索やSNS、デジタル広告の進化によって変化する情報接触環境にも注目。デジタルメディアとリアルメディア、それぞれの特性を活かしたコミュニケーション設計について、実務とマーケティングの両面から考察している。


